Monday, 28 January 2019 18:12

■改正水道法議論に思う -組織にふさわしいミッションの重み- Featured

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改正水道法が2018年12月6日、成立した。広域化とコンセッション方式による民間企業参入を容易にする。

民間企業の参入促進については世界の流れに逆行すると反対論も多い。水道料金の高騰、水質の低下などが問題となり海外では水道事業の再公営化の波が現れているのは明らかだという。オランダの非営利シンクタンク「Transnational Institute (TNI)」などグループの報告書「Our public water future」によれば、2000年3月から2015年3月までの間、米国、フランスなど37カ国で235の水道事業が、再公営化されたという。

折しも岩手県雫石町の長山岩手山地区では、民間の水道事業者が地区住民に負担増を求め、応じなければ水の供給を停止すると通告する事態が発生した。同事業者は「水道供給を止めた方が赤字は減る」と主張している。この事態が改正水道法の将来の先取りと不安感を煽る向きもある(河北新報2018年12月18日付)。

水道事業に限らず、病院、交通、ガス、電気、観光など事業を地方公共団体が経営する公営企業を取り巻く経営環境は厳しい。人口減少等に伴う料金収入の減少や、少子高齢化による需要の変化、施設等老朽化による更新需要の増大、耐震化をはじめ災害対応の強化、大量退職等に伴う職員数の減少、電力、ガス自由化といった制度改革の影響等への対応を課題として抱えている。国・地方公共団体の財政状況も厳しい。社会インフラ整備を担ってきた公共事業費は長期的に減少している。

こうした経営環境下の行動の原理・原則は「事業の選択と集中」と「事業の持続可能性」に尽きる。事業の選択と集中とは、どの事業を実施し、どの機能を選択するのかを、事業の持続可能性とは、その事業に必要な優位性や経営資源が長期にわたって持続可能かをそれぞれ厳しく問い質すことである。事業の選択と集中、持続可能性を突き詰めていく中で、事業廃止を含め、広域化、民営化、民間譲渡、民間活用(指定管理者制度、包括的民間委託、コンセッション方式)などの戦略的オプションが利用可能なことは必ずしも悪いことではない。

もっとも、事業戦略自体が、それを実施する組織のミッションとしっかり噛み合っていなければ上手くいかない。適切なミッションなき選択と集中は不採算事業の安易な切り捨てを、事業の持続可能性は収益・投下資本といった財務関連性の乏しい持続可能性イシューへの不敬を正当化する口実になりかねない。

組織のミッションは、その存在意義や目的を定め、あらゆる組織行動を律する。いかなる組織行動もその組織ミッションに合致することが求められる。それは、他の誰かに強制されるものではなく、自ら掲げるべきものである。自ら掲げたミッションに忠実でありさえすれば、いかなる組織行動でも是認されるという意味ではない。組織のミッションは、好き勝手に決められるものでもない。

それぞれの地域やコミュニティには、それぞれの地理、歴史、文化があり、それは過去、現在そして未来へとつながっている。組織が一定の地域やコミュニティを基盤に事業を実施するということは、それらを共有することに他ならない。共有された理解に基づく適切な振る舞いがあるに違いなく、その役回りは自身で積極的に見出さなければならない。企業の役回りは、従業員のケイパビリティを高め、善き人生を支援することかもしれないし、住民の福祉を改善することかもしれない。顧客のプライバシーを保護することにあるのかもしれないし、最大限の利益を追求し、税金を納めることであるのかもしれない。個々の企業が置かれた文脈に依存する。事業内容や事業展開国・地域、事業形態によって一律に決まるものではない。一朝一夕にひねり出されるものでもない。長い時間をかけ、時に失敗を重ねながら見出し、組織内外に浸透させていくべきものである。それが組織ミッションになる。

地方公共団体が公営企業の各事業で民間活用を進め、民間企業がその事業を引き継ぐにしても、地域の中で育まれてきたミッションを継承しなければならない。そう公営化問題の本質もここにあると見る。上水道事業でのコンセッション方式の導入を検討していた浜松市は、「民間企業に丸投げするような誤解が、市民に広がっている」(鈴木市長)ことから、今年度中としていた判断を先送りした。ミッションの継承に配慮した決断として評価できる。

継承しなければならないミッションが、利益を最大化させることにあるならば、水道料金を大幅に値上げすること、水質を落としコスト削減することは是認せざるを得ない場合もある。雫石町の長山岩手山地区の事案では、この点がはっきりしない。同地区は40年前のリゾート開発で誕生した。町の水道事業の区域外にあり、水道事業は当初から民間事業者が担ってきた。負担増を求めた民間水道事業者は2017年9月に業務を引き継いだ。そのミッションが一義的には利益追求にあり、それがコミュニティの含意であるとすれば、一定の経営努力が求められるにせよ、水道供給を止めた方が赤字は減るとする民間水道事業者の主張は必ずしも否定できないことになる。事業者と地域住民との密なエンゲージメントの不足がうかがえる。

民間企業ではミッションの継承ができないというのであれば、地方公共団体自らが事業にふさわしいミッションを掲げ、それに合致するような公営企業の経営のあり方を考えるほかない。滋賀県長浜市全域と米原市旧近江町区域の上水道を担う長浜水道企業団は、こうした方向性にある。同企業団が2018年3月に作成した「地域水道ビジョン」に示された基本理念は、「これからもきれいな水を届けたい未来のあなたへ」だ。蛇口をひねれば日本中いつでもどこでも当たり前のように安全な水道水が使え、明るい暮らしを支えている今を、50年後にもつなげるという。そのために、職員による直営方式中心で、技術者の育成と絶え間ない技術の継承を図る。給水装置工事検査業務などでは、住民の水道への信頼にも影響する重要な課題とし、民間委託をやめている。ビジョンの成否は、蛇口をひねれば水が出るというあたりまえを未来につなげるというミッションが地域の紐帯として機能するかにある。

参考:
Our public water future」「Transnational Institute (TNI)
河北新報 「岩手のニュース」2018年12月18日
地域水道ビジョン」 長浜水道企業団 2018年3月