2019/02/10(日) 20:27

■仮想通貨は暗号資産として蘇るか

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金融庁は2018年12月14日「仮想通貨交換業等に関する研究会」第11回会合を開催し、12月21日に報告書を公表した。今後、早ければ2019年1月以降に召集される通常国会に関連法案が提出される見込みである。

現状、仮想通貨交換業者に対する規制は、「犯罪収益移転防止法」における本人確認義務の導入等のマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策および「資金決済法」における説明義務等の利用者保護規定に依っている。2017年4月資金決済法が改正施行されたのを契機に、日本において仮想通貨取引が急増した。

2018年1月に「コインチェック」が、不正アクセスを受け、顧客からの預かり資産約580億円相当が外部に流出するという事件が発生した。その後、金融庁の立入検査により、みなし登録業者や登録業者におけるセキュリティ対策、顧客への説明・情報提供など内部管理態勢等の不備が露見した。また、仮想通貨の価格が乱高下し、仮想通貨が決済手段ではなく、投機の対象になっている中、投資家保護が十分ではない状況にある。さらに、証拠金を用いた仮想通貨取引や仮想通貨による資金調達(ICO)などの新しい取引が行われている。国際的にはマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の要請が強まっている。このような状況を踏まえて、金融庁は仮想通貨交換業等をめぐる諸問題について制度的な対応を検討するために、2018年3月「仮想通貨交換業等に関する研究会」(座長:神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)を設置し、4月第1回会合を開催した。

その検討の最中、2018年9月には、仮想通貨交換業者「テックビューロ社」が運営する仮想通貨取引所「Zaif(ザイフ)」が外部からの不正アクセスを受け、管理していた仮想通貨(3種類)計約70億円相当(うち顧客預かり資産約45億円相当)が不正に流出するという事件が発生した。
研究会は、2018年末まで短期間で11回という高い頻度で会合が持たれ、今般の報告書公表に至ったものである。

2018年4月10日、第1回会合で「一般社団法人日本仮想通貨交換業協会」が説明した資料(ただし、仮想通貨の価格が下落、取引量が縮小した2018年の実績は含まれていない)によると、仮想通貨の概況は次のとおりであった。
「現在、世界で流通している仮想通貨は約1,500種類以上と法定通貨の約10倍と言われている。
主要通貨ビットコインの一日当たりの取引量は2015年以前では100億円程度、2016年に最大でも400億円であったが、2017年には最大で3兆円近くまで急増した。
ビットコインの2017年度の価格変動をみると、4月の12万円から12月には200万円を超え、2018年3月31日時点では約75万円に下落した(2019年1月現在約40万円前後)。全期間平均で1日当たり約2.6%、最大で約25.3%の価格変動率となった。時価総額も最大35兆円まで増加したが、年度末には約12兆円に減少した。
仮想通貨の取引形態としては、現物取引および証拠金取引等(レバレッジ取引)がある。国内の取引状況を概観すると、2017年度は現物取引が12兆7千億円に対して、証拠金取引等が56兆4千億円と現物取引の4倍以上となっており、これが価格変動の主因ともなっている。現物取引の年代層別顧客数分布をみると20代から40代までが、人数総数3,500千人の90%を占めている。預かり資産額は、全体の利用者の95%が100万円未満、うち約77%が10万円未満である。他方、1,000万円以上の資産を保有する利用者数は5,828人と極めて少ない。手数料水準は取引所手数料率上限0.7%に比して販売所スプレッド上限7%と高い水準である。決済機能として使用できる店舗数はビットコインが52,200で、それ以外の通貨が使える店舗は100にも満たない。」

「仮想通貨交換業に関する研究会」報告書(2018.12.21)の概要

1.仮想通貨交換業者を巡る課題への対応
(1)顧客財産の管理・保全の強化
ア.受託仮想通貨の流出リスクへの対応
・オンラインで秘密鍵を管理する顧客の仮想通貨相当額以上の純資産額および弁済原資の保持を義務付け
イ.仮想通貨交換業者の倒産リスクへの対応
・自己財産と顧客財産の分別管理(信託制度を利用)
・業者破綻時の顧客の業者に対する受託仮想通貨の返還請求権を優先弁済の対象とする
(2)仮想通貨交換業者による業務の適正な遂行の確保
ア.取引価格の透明性の確保、利益相反の防止
イ.過剰な広告・勧誘への対応
ウ.認定協会の自主規制規則との連携
・仮想通貨交換業者の認定協会(自主規制機関)への加入促進
(3)問題のある仮想通貨の取扱い

2.仮想通貨の不公正な現物取引への対応
(1)仮想通貨の不公正な現物取引の現状と規制導入の必要性
・不正行為、風説の流布、相場操縦、インサイダー取引等に対する規制の要否

3.仮想通貨カストディ業務への対応
(1)仮想通貨カストディ業務の現状と規制導入の必要性
(2)仮想通貨カストディ業務に係る規制の内容

4.仮想通貨デリバティブ取引等への対応
(1)仮想通貨デリバティブ取引の現状と規制導入の必要性
(2)仮想通貨デリバティブ取引に係る規制の内容
ア.デリバティブ取引であることを踏まえた対応
・他のデリバティブ取引と同様の業規制
・証拠金倍率の上限設定
イ.仮想通貨の特性等を踏まえた追加的対応
(3)仮想通貨信用取引への対応
仮想通貨の証拠金取引と同様の規制対象とする

5.ICOへの対応
(1)ICOの現状と対応の方向性
ア.ICOによる資金調達の現状
イ.ICOに係る規制の現状
・一部の国ではICOを禁止する動きがある
・多くの主要国では投資性のあるものについては既存の証券規制の適用対象とする動き
・日本では2017年10月ICOのリスクについて注意喚起に留まる
ウ.ICOへの対応の方向性
・適正な自己責任を求めつつ、規制内容を明確化し、利用者保護や適正な取引の確保を図る
(2)ICOに係る規制の内容
ア.投資に関する金融規制を要するICOに係る規制の内容
・仮想通貨で購入される場合全般を規制対象とすることが適当
(ア)情報提供(開示)の仕組み
・第一項有価証券(株式、社債など)と同様の情報提供(開示)の仕組みを設ける
(イ)第三者による事業・財務状況のスクリーニングの仕組み
(ウ)公正な取引を実現するための仕組み
(エ)トークンの流通の範囲に差を設ける仕組み
イ.決済に関する金融規制を要するICOに係る規制の内容
・情報提供の拡充

6.業規制の導入に伴う経過措置のあり方

7.「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称変更
・仮想通貨(virtual currency)
・暗号資産(crypto-asset)
・法令上「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に変更することが考えられる

(上記下線は、筆者によるもの)

仮想通貨は、本来目指していた方向性とは違った世界に向かっている。すなわち、仮想通貨の位置づけが資金決済手段から投資・投機対象に変わってきており、現行の資金決済法では、法律的にカバーできない状況にある。また、2017年4月に資金決済法が改正され、仮想通貨交換業者16社が登録されたが、顧客の大切な財産を預かって業を営むという本来求められる意識に欠けていた。さらに、法律、制度で要求されている初歩的なコーポレート・ガバナンス、コンプライアンスおよび内部統制機能が十分働いていなかったと言っても過言ではないだろう。
このような状況下で、2018年には巨額の資金流出事件は、主なものだけで国内2件を含め世界で5件発生し、流出額は約1000億円相当額に上った。
(1968年東京府中で起きた3億円事件の貨幣価値が現在10億円程度と言われているが、この事件に比べるとコインチェック事件の580億円は大事件であるはず。捜査当局、メディアも大きく取り上げないのは、現金ではなく、仮想だからか?)

当初、その決済機能に着目して資金決済法の改正を行い、規定したことは拙速ではなかったか?中途半端な法規制ではなく、金融商品取引法などを前提として規律すべきであろう。
そして、仮想通貨の問題、課題解決は、金融制度スタディグループの議論(金融業法を機能的・横断的法制の観点で具体的な規制体系を検討中)に合わせて検討するのではなく、先行して、法整備を行うべきであろう。

金融庁は、国民の安定的な資産形成を図るためには、金融事業者がインベストメント・チェーンにおけるそれぞれの役割を認識し、顧客本位の業務運営に努めることが重要との観点から2017年3月「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、本原則を採択した金融事業者に対し、「取組方針」を策定・公表することを求めた。
金融システムにおけるイノベーション、データライゼーションの促進を否定するものではないが、仮想通貨は、価値の安定性が乏しく、送金手数料水準の優位性が見られない現状で、決済手段としての機能を十分果たせなくなっている。また、限られた市場参加者が投機的な動きを強めており、その存在の有意性が問われている。仮想通貨交換業者等が、顧客の大切な財産を預かって業を営むという当然持つべき意識がない限り、多くの国民に受け入れられることはないだろう。
今回の報告書に基づいて、法整備が行われる見込みであるが、「仮想通貨」から「暗号資産」に名称変更し、どのように生まれ変わるのであろうか?
金融庁は、国民の健全な資産形成という公共目的を目指すのであれば、慎重な金融行政を推進するべきであろう。

<参考>

「仮想通貨交換業に関する研究会」報告書(2018年12月21日)金融庁
https://www.fsa.go.jp/news/30/singi/20181221.html

(参照:2019-2-9)