2019/02/14(木) 15:12

■地域分権型経済と再生可能エネルギー

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日立製作所は1月17日、英国での原子力発電所建設プロジェクトを凍結する*1と発表した。2019年3月期決算で約3000億円の損失を計上する。他の日本メーカーも輸出からの撤退を進めている。東芝は海外での新設から撤退、三菱重工もトルコでの建設計画の断念に向けた調整をしているという。日本が官民で進めてきた原発輸出は総崩れとなっている。原発メーカーは再び国内市場に目を向けざるを得ないが、原発の再稼働は進まない。新設も見込めない。

これに先立つ15日、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は、安全性の議論が尽くされても進まない原発の再稼働に触れて、「原子力について真正面からの議論が足りていない*2と広い議論の必要性を訴えた。そのうえで、長期的にみて人類のエネルギー源として、再生可能エネルギーは原子力の代わりにはならないと問題提起をした。

一方に地域の分散型電源を柔軟に活用する小規模・分散型のエネルギー・システムを置き、他方に大規模電源と需要地を系統でつなぐ従来型の大規模・集中型のエネルギー・システムを置いた場合、政府の立場はある意味「中立」である。政府が2018年7月に閣議決定した「第5次エネルギー基本計画*3の言い回しを借りれば、「あらゆる選択肢の可能性を追求する野心的な複線シナリオの採用」によって、原子力を重要なベースロード電源に位置付ける一方、再生可能エネルギーの主力電源化を目指す。政府は時勢の赴くところ両方の政策を進め、この問題に対してどちらか一方に寄ることはないと見られる。今は、小規模・分散型に分がある。昨年9月の北海道地震で発生したブラックアウトによって分散型の電力ネットワークに注目が集まっている。例えば、環境省は地域の再生可能エネルギーで地域の電力をまかなう実証事業*4を2019年から始めるという。太陽光発電、蓄電池、電気自動車(EV)、自ら敷設した送電線「自営線」を組み合わせて地域の再生可能エネルギーの自給率を最大化した災害に強い自立、分散型の電力ネットワークの構築を目指す。

この問題への政府の態度が「中立」であるとすれば、その選択は、企業部門や家計部門の自由な経済活動の選択の結果ということになる。雇用、消費、教育・学習、文化、科学技術など今日の日常生活に関わる多くの側面は、多国籍や全国規模の巨大企業にどうしようもないほど依存し、翻弄されている。巨大企業への経済力の集中は産業発展の必然であり、制御するのが難しい。官邸主導で支援してきた原発輸出も、結局は「民間の経済合理性」(日立製作所:東原敏昭社長)による決断に為す術もない。大きな電源を保有する大手電力会社による新規参入の新電力の囲い込みも始まっているという。自由な経済活動の選択の結果とは、巨大企業の自由な選択の結果と同義なのかもしれない。この現実からすれば、「政、官、産、学で真剣に議論していく必要」を呼びかけたとしても、家計部門は、再生可能エネルギーは原子力の代わりになり得ないという結論を受け入れるしかなく、議論が成立しないおそれもある。

地理的にも、心理的にも遠く離れた場所で下される巨大企業の決定から地域のアイデンティティを取り戻そうという声も大きくなっている。「エネルギーの地産地消」を掲げ自治体主導で地域に電力を供給する「地域新電力」の設立が相次ぐこと(中日新聞2019年1月18日付など)、地方自治体が主体となり、電力、ガス、熱といったエネルギー供給から、上下水道、廃棄物処理、公共交通など様々なサービスを地域に提供するドイツのシュタットベルケ*5をモデルとした日本版シュタットベルケへの憧れを真摯に受け止めるべきだ。それは、地域密着型の企業を中心とした分権的経済への渇望を反映している。巨大企業を中心とする独占的で中央集権的な経済と対置される。前者を望むならば、それにふさわしいエネルギーシステムは、小規模・分散型のエネルギーシステムであり、その核となるのは再生可能エネルギーであろう。逆に、望むならば、大規模・集中型のエネルギーシステムがふさわしい。その核となるのは原子力であろう。

問題の焦点は、原子力か再生可能エネルギーではない。巨大企業による中央集権的経済かかの選択にある。

参照資料:
*1 英国原子力発電所建設プロジェクトの凍結に伴う連結決算における減損損失等の計上、個別決算における特別損失の計上および通期連結業績予想の修正に関するお知らせ 日立製作所 (2019年1月17日)
*2 定例記者会見における中西会長発言要旨(エネルギー問題) 日本経済団体連合会 (2019年1月15日)
*3 エネルギー基本計画 経済産業省・資源エネルギー庁 (2018年7月)
*4 脱炭素イノベーションによる地域循環共生圏構築事業 環境省・地球環境局 
*5 ドイツのシュタットベルケから日本は何を学ぶべきか IEE JAPAN (2018年3月)