2019/02/20(水) 09:46

■G20を控え加熱するTCFDへの期待〜「平成最後の」年に動く国際社会の変貌〜

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日本政府は今年6月に大阪で開催するG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)の議長国を初めて務めることに向けて、政府をあげて準備に取り組んでいる。日本としては、昔と比べて薄くなっている国際政治の場での存在感やリーダーシップを取り戻す大舞台と捉えているだろう。G20の議題としては、「気候変動問題」や「海洋プラスチック問題」の解決をリードしていくことや、SDGsを中心とした開発・地球規模課題への貢献を促進すると同時に、日本のおもてなし精神や魅力を売り込むことにも意欲を燃やしている。

中でもG20が推奨する TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応に関連する動きが、複数の関係省庁から相次いで打ち出されている。先の世界経済フォーラム(ダボス会議:2019年1月22日〜25日)では安倍総理がスピーチの中で、日本がTCFDのガイダンスを発表したことを「世界に先駆けて」、と誇らしげに語っているが、本格的に動き出したのはわずか半年前のことだ。2018年6月に官邸主催の「未来投資会議*1」で、GPIFの水野理事が提示した資料にTCFDへの賛同推進が提言されている。その後、2018年8月には、経済産業省が「グリーンファイナンスと企業の情報開示の在り方に関する『TCFD研究会』」を設置し、2018年12月25日スピーチで言及した前述の「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFDガイダンス)*2」を公表している。やや唐突にも感じるが、今までになくハイスピードでまとめあげられた集中度は異例とも言える。年が明けてからさらに加速し、驚くほど活発に周知活動が繰り広げられている。金融庁、経産省、環境省などがそれぞれに、あるいは日本取引所なども含め、共催するセミナーが連日開催されている。金融庁からは専用のTwitter アカウントが設置された(2月8日開設。https://twitter.com/tcfd_JFSA)。

TCFDは、G20の金融安定理事会(FSB)が設置したタスクフォースで、気候変動がもたらす「リスク」及び「機会」の財務的影響を把握し、開示することを狙いとした提言である。先のCOP24(2018年12月 於ポーランド、カトヴィツェ)では、2020年から始まるパリ協定運用のルール作りとして一定の合意に至ったが、IPCC (気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書*3の内容も今後の議論に取り入れる事を呼びかけている。世界は、思った以上の速さで脱炭素社会に「移行」することを決意したのだ、と捉えることができる。ただ、200近い国の間では足並みも揃わず、各論では温度差も相当大きいことも現実だ。しかし、近年の予測のできない異常な気候の影響は、すでに物理的な被害を数多くもたらし、修復困難な壊滅的ダメージを受ける事態も次々と起こっている。サステナブルな企業であるためには、政府や投資家や外部評価などの外圧を受けた受け身の行動としてではなく、この危機が自社のビジネスに及ぼす可能性をしっかり把握することが必要だ。急激に変化する環境への対応は存続を左右する、喫緊の課題であることは間違いない。

移行リスクや物理リスクがある一方、この危機を解決するソリューションを提供できるならば、それは「機会」と捉えることができる。どちらかと言うと、日本はこんなに「貢献」できる、それは「高度なイノベーションによる解決能力」によるものだ、と読み取れる文脈を多く見かける。「売り込む」ことは悪いことではない。しかし、それ以前にその環境への負の影響に対する、責任ある姿勢が前提になくてはならないはずだ。先日、世界の気候変動問題に詳しい英国Carbon Trustの話を聞く機会があったので、TCFDには「リスク」と「機会」が強調されていて、「対応の責任」はなぜそれほど出てこないのか、と質問してみたところ、「それは既に当たり前のことだからだ」と言う回答だった。その認識の上で、TCFDの開示が意味を持つのだと言う事を、日本でも開示側の企業と、それを読み取る投資家が、理解していなければならないだろう。

昨年末あたりから「平成最後の」という言葉が枕詞のように使われている。私たち日本国民にとっては、元号が変わるというだけでも「変化の年」であるし、来年にはオリパラ・・となんとなく慌ただしい気持ちになっていると言えるが、世界はこの数年をかけて舵を切った今までとは違う方向に向かい、全速力で動き出す1年になりそうだ。そんな国際社会の変化を、私たちは正確に感じ取っているだろうか。G20での役割を果たしリーダーシップをもう一度取り戻すことももちろん大事だが、この100年の経済・社会の根本が変貌していることに対して、国家も民間も個人も、しっかり考えるマインドの転換がまだまだ薄いように思えてならない。守りを固めているように見えて、実は周回遅れになるような事態には陥ることのないよう考えたい。ぼーっと生きていては、「叱られる」だけでは済まないという危機感を持ちたいと思う。

以上

参照資料:
*1 未来投資会議:日本経済再生本部の下、第4次産業革命をはじめとする将来の成長に資する分野における大胆な投資を官民連携して進め、「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略と構造改革の加速化を図るため、産業競争力会議及び未来投資に向けた官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔として、未来投資会議(以下「会議」という。)を開催する。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/pdf/konkyo.pdf

*2 詳細は『経済産業省「TCFDガイダンス」公表』(菅原晴樹)を参照)
https://www.grid-f.com/blog/item/1750-tcfd.html


*3 正式タイトル:気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な発展及び貧困撲滅の文脈において工業化以前 の水準から1.5°Cの気温上昇にかかる影響や関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する特別報告書

この作者の最新記事: 松川 恵美(CEO)