Wednesday, 20 February 2019 10:00

■経済産業省「TCFDガイダンス」公表

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金融安定理事会(FSB)がG20の指示を受けて、2015年12月に民間主導の気候関連財務情報開示タスクフォース(以下:TCFD)(議長:マイケル R. ブルームバーグ)を設置した。2017年6月に「あらゆる公的機関・民間企業は、将来起こりうる気候変動による影響について分析し、その評価を対外的に公表すべきである」とした提言をまとめた最終報告書(以下:TCFD提言)を公表した。その後、TCFD提言は、他の枠組み等に影響を及ぼしている。

2000年に設立されCarbon Disclosure Projectを前身とする国際NGOのCDPは2018年よりTCFD提言に対応する形で質問書の改訂を行っている。SASB(Sustainability Accounting Standard Board:アメリカサステナビリティ会計基準審議会)も2018年11月にTCFDに対応した新基準を公表し、業種ごとに項目が改正され、シナリオ分析の結果開示などが追加された。WBCSD(World Business Council Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)でも業界別にTCFD提言への対応に向けた検討を開始しており、石油・ガス業界および化学業界のガイダンスを公表している。

その動きに呼応するように、日本では、経済産業省は、2018年8月に「グリーンファイナンスと企業の情報開示の在り方に関する『TCFD研究会』」を設置し、TCFDが求める気候関連の情報開示について議論を進めてきた。

2018年12月25日、「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFDガイダンス)」を取りまとめ、公表した。併せて、経済産業省は同日付でTCFDの趣旨に賛同する旨の署名を行った。
これにより、2018年12月25日現在、日本のTCFD署名機関数は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を含めて42機関となり、世界の563機関が署名している中、イギリス、アメリカ、オーストラリアに次いで第4位となった。

一方、金融庁も、企業に対して気候変動対応に関する企業自らのリスクと機会の把握・開示を求めるTCFD提言について、企業価値向上を目指す企業・投資家の対話の中で提言内容が活用されることを期待するとともに、関係省庁とも協力してサポートしていくことを表明している。海外金融当局において気候変動がもたらす金融安定リスクに対処するために、金融監督やリスク管理の具体的アプローチについて検討・研究を進める動きがあることも踏まえ、金融庁としても、金融機関に対しては気候変動に係るリスクや機会を的確に把握しているか等について、必要な対話を進めていくとしている。

金融庁は、2018年6月気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するための中央銀行および金融監督当局の国際的ネットワークである「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク」(Network for Greening the Financial System:NGFS)に加盟した。

1.「TCFDガイダンス」策定の背景
2015年パリ協定が採択されたことを契機に、気候変動を取巻く世界情勢は大きく変化してきた。投資・金融の分野では、ESG投資・金融の拡大に伴って、企業に対してESG要素に関する情報開示を求める機関投資家および銀行等の要請が拡大している。特に、「TCFD提言」が公表されたことから、気候変動に関する企業の取り組みについて、投資家等から情報開示を求める声が高まっている。                         
このような環境変化を踏まえ、経済産業省は2018年8月に「グリーンファイナンスと企業の情報開示の在り方に関する『TCFD研究会』」(座長:伊藤邦雄一橋大学大学院経営管理研究科特任教授 委員:実業界9名 金融界2名 学識経験者等4名 オブザーバー:環境省、金融庁、一般社団法人日本経済団体連合会、株式会社日本取引所グループ)を設置し、事業会社の経営者と国内外の投資家等との「対話」を通じたTCFD提言に沿った情報開示の在り方を議論してきた。                          
2018年12月25日TCFD研究会第3回会合において、TCFD提言に沿った情報開示を行うに当たっての解説や参考となる事例の紹介と、業種別の開示推奨項目の提案を目的とした「気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFDガイダンス)」を策定した。

2.「TCFDガイダンス」の概要
パリ協定が目指す目標(いわゆる2℃目標)を実現するためには、企業によるイノベーションの創出とそれに対する民間資金を投入・循環させていく仕組みづくりが重要である。企業の気候変動対策への取り組みが、TCFDに基づき適切に開示され、企業と投資家等との間で効果的な対話を重ねることが、投資家等が企業の積極的な取り組みに資金を供給し、リターンを獲得していくという「環境と経済の好循環」を実現するために必要である。このような対話のためのツールとして、TCFD提言を活用することは有用である。本ガイダンスは、企業がTCFD提言に沿った開示を進めるための第一歩を示すことを目的として、次のような構成としている。

第1章(はじめに)
本ガイダンスの策定に至った背景や趣旨、TCFD提言と本ガイダンスの関係等について説明している。
本ガイダンスは、TCFD提言に解説を加えることで、企業がTCFDに基づき開示を行うことを後押しするものである。
最初から完璧な開示を目指すものではなく、可能な項目から開示していくことが重要である。そして、継続的に開示のベストプラクティスを蓄積し、今後ガイダンスを改訂していく予定としている。

第2章(TCFD提言に沿った開示に向けた解説)
企業による開示を後押しするため、TCFD提言および補助的文書に対する企業や金融機関の疑問点を解消することを目的として、金融機関の意見や開示事例、TCFD提言策定時の議論などを基にして解説している。

情報開示の媒体として、重要事項は有価証券報告書に記載し、それ以外は統合報告書、アニュアルリポート、環境報告書、サステナビリティレポートまたはCSRレポート等で開示することを可とする。

ただし、TCFD提言では、気候関連情報の開示にあたって、特定の様式を示していないため、TCFD提言によって推奨される項目との関連性を示すことが難しい。また、投資家等からすると、情報開示の媒体が多岐にわたり、企業間の比較をする上で、効率的ではない。本件に限らず、企業は、任意の開示媒体、開示項目の統一化を検討すべき時期に来ている。

企業の組織運営のための中核的要素である4つのテーマ、すなわち「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」および「指標・目標」について、それぞれ開示内容を解説している。

・ガバナンス:気候関連のリスクおよび機会に係る組織のガバナンスを開示する。
・戦略:気候関連のリスクおよび機会がもたらすビジネス・戦略・財務計画へ実際に及ぼす潜在的影響について、その情報が重要な場合、開示する。シナリオ分析は、気候関連リスクおよび機会の戦略的意味合いを理解するための重要かつ有益なツールである。
・リスク管理:気候関連リスクについて、組織がどのように識別・評価・管理しているかについて開示する。
・指標と目標:気候関連のリスクおよび機会を評価・管理する際に使用する指標と目標について、その情報が重要な場合、開示する。

複数の異なるビジネスモデルを持つ企業の開示方法:各ビジネスモデルの気候変動のインパクトに応じて開示する。

中堅・中小企業におけるTCFD対応の進め方:世界の温暖化対策に貢献する企業はビジネスチャンスの積極的な開示を推奨する。

第3章(業種別の開示推奨項目)
気候変動のリスク・機会は業種ごとに異なるため、ガイドラインでは、温室効果ガス(GHG)の排出量の多い主要5業種(自動車、鉄鋼、化学、電機・電子、エネルギー)について、望ましい戦略の示し方や、推奨する開示ポイント・視点を解説している。
・自動車:走行時の排出削減に繋がる車種の技術開発
・鉄鋼:製造プロセスの効率(エネルギー原単位)向上に向けた取り組み
・化学:環境貢献製品を通じた削減貢献量や研究開発の取り組み
・電機・電子:排出削減に繋がるIOTソリューションや省エネ化に向けた開発
・エネルギー:再エネや発電設備の高効率化・次世代化に向けた技術開発

第4章(おわりに)
本ガイダンスの内容を踏まえた今後の情報開示の進め方や、ガイダンスの更なる拡充に向けた取り組み等について説明している。

今後の方向性として、今回提示したガイダンスは企業の気候関連情報開示や投資家との対話の質の向上に向けた出発点であり、今後、企業による開示の優良事例や投資家の評価実態等を把握・分析しつつ、より良い内容や活用方法を検討し、見直しを行っていく予定である。

(1)TCFD関連情報(経済産業省ホームページ)の開設:2018年12月25日開設
(2)事例検討WGの開催:2019年1月下旬にかけてTCFD提言に沿った良い事例を募集し、その後、検討WGを実施し、事例集を公表予定
(3)普及啓発(イベント等開催):金融庁・経済産業省の連携イベントを開催    
  ① 2019年2月12日金融庁および日本取引所グループ共催シンポジウム「TCFDを巡る企業と投資家の対話:今後の展望」                      
  ② 2019年2月13日経済産業省およびTCFD共催シンポジウム「企業と投資家の対話-TCFD・シナリオ分析-」                            
  ③ 産業界と金融界の対話のプラットフォームの設置等
(4)ガイダンス改訂:意見を収集の上、2019年度以降、検討WGを立ち上げ、ガイダンスを改訂する予定

TCFD提言を契機に気候変動リスクが金融システムに組み込まれたと言っても過言ではない。間接金融の世界では、銀行融資の審査プロセスに財務データとして気候変動リスクを加味しなければならなくなり、伝統的審査業務は大きな転換を迫られることになるだろう。

今後、アメリカ証券取引委員会(SEC)がSASBの会計基準に基づく開示(年次報告書等)を義務付けることになれば、企業も金融業界も気候変動リスクを含めたESG情報の重要性を今まで以上に認識せざるを得なくなる。

また、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP・FI)は、「責任銀行原則(PRB)」の草案を公開し、2019年9月発効を目指している。PRBは、銀行がSDGsやパリ協定の実現に向けて融資等の業務を行うための規範となるものである。署名機関数が2000以上に拡大した「責任投資原則(PRI)」とともに影響は大きくなろう。

そして、日本では、2018年11月2日に、金融庁から「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案が公表された。財務情報および記述情報の充実、建設的な対話の促進に向けた情報の提供ならびに情報の信頼性・適時性の確保に向けた取り組みについて、有価証券報告書等の記載内容の改正が提案されている。財務情報および記述情報の充実に関しては、事業等のリスク(ただし、気候リスクの明示はない)について詳細な開示が求められており、2020年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。ただし、2019年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用することも可能としている。

ESG投資・金融に積極的に取り組んでいる世界の投資家、銀行等の金融機関から日本の金融マーケットが注目されるためには、企業はTCFDが要請する気候変動に関する情報の開示にとどまらず、それを含むESG(環境、社会、ガバナンス)要素の情報開示を迅速かつ積極的に進めていかなければならない。金融庁、東証および企業会計審議会等も優先的に取り組む課題である。
その前提として、企業は、トップダウンで気候変動対策を含むSDGsの目標を迅速に実行に移し、目標達成に向けて取り組むことが必要である。

現在、国内外でTCFDの評価方法の開発が進められているが、2019年6月G20大阪サミットが開催されるのを契機に、日本企業が先駆的に評価結果を公表できれば、世界の投資家・銀行等の評価も向上するのではないか。ただし、そのための時間的猶予はない。

<参考>
TCFDガイダンスの概要と今後の進め方
(2018年12月25日 経済産業省 産業技術環境局環境経済室)
http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181225012/20181225012-1.pdf

気候関連財務情報開示に関するガイダンス(TCFDガイダンス)
(2018年12月経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181225012/20181225012-2.pdf

最終報告書:気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(日本語訳)
(2017年6月気候関連財務情報開示タスクフォース)
https://www.fsb-tcfd.org/wp-content/uploads/2017/06/TCFD_Final_Report_Japanese.pdf
(参照:2019-2-18)