Tuesday, 12 March 2019 21:43

■「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)」の骨子案について

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2019年2月13日経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下:CGS研究会)第2期第14回会合が開かれた。2018年5月から検討を進めてきたグループ・ガバナンスについて「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)」の骨子案が提示された。3月中には、実務指針として取りまとめるスケジュールとなっている。

経済産業省のコーポレート・ガバナンスに関する検討の経緯をたどってみたい。
2014年2月26日「スチュワードシップ・コード」(以下:SSC)が策定され、次いで、2015年6月1日「コーポレートガバナンス・コード」(以下:CGC)が適用開始された。

2014年12月から検討を再開した「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」は、中長期的な企業価値向上のためのインセンティブ創出、取締役会の監督機能の活用および監督機能を担う人材の流動性の確保と社外取締役の役割・機能の活用という基本的な考え方に基づき検討を行った結果、2015年7月24日コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革」を取りまとめた。
その後、2016年7月1日に立ち上げたCGS研究会第1期において、企業価値向上に向けた具体的な行動について検討を進め、2017年3月10日「CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」(CGSレポート)を公表した。

これを踏まえ、2017年3月31日、日本企業のコーポレート・ガバナンスの取り組みの深化を促す観点から、各企業において検討することが有益と考えられる事項を盛り込んだ「コーポレート・ガバナンス・システムガイドライン」(以下:CGSガイドライン)を策定した。CGSガイドラインは、2015年に策定されたCGCに示された実効的なコーポレート・ガバナンスの実現に資する主要な原則を企業が実践するに当たって考えるべき内容を、CGCと整合性を保ちつつ示すことでこれを補完するとともに、「稼ぐ力」を強化するために有意義と考えられる具体的な行動を取りまとめたものである。

併せて、CGSガイドラインの別添として「経営人材育成ガイドライン」および「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」も策定した。
その後、2017年5月29日SSCが、次いで2018年6月1日CGCが改訂された。

これを機に、経済産業省は、CGSガイドラインのフォローアップを行うこととし、CGSガイドラインで提言されている主要項目についての企業の取組状況等を把握するべく、コーポレート・ガバナンスに関する企業アンケート調査を実施した。この調査結果も踏まえ、2017年12月8日からCGS研究会第2期において、コーポレート・ガバナンス改革の現状評価と実効性向上に向けた課題について検討を行った。CGSガイドラインのフォローアップの結果やコーポレートガバナンス・コード改訂の動き等を踏まえ、コーポレート・ガバナンス改革を深化させていく上で重要と考えられる事項に関し、CGSガイドラインの見直しも含めた今後の対応の方向性について、2018年5月18日、中間整理「実効的なコーポレートガバナンスの実現に向けた今後の検討課題」が取りまとめられた。

そして、中間整理における提言を踏まえ、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現に向けて検討することが有益と考えられる事項に関し、2018年9月28日に「CGSガイドラインの改訂」を行った。

そして、政府が発表した「未来投資戦略2018」(2018年6月15日閣議決定)において、「企業グループ全体の価値向上を図る観点から、グループ経営において『守り』と『攻め』両面でいかにガバナンスを働かせるか、事業ポートフォリオをどのように最適化するかなど、グループガバナンスの在り方に関する実務指針を来年春頃を目処に策定する」との記述が盛り込まれた。これを契機に、CGS研究会第2期は、グループガバナンスに関する現状と課題について検討を重ねてきたが、その成果として2019年2月13日に「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)」の骨子案を示すに至ったのである。

今回、提示された「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)」(以下:本ガイドライン)の骨子案の概要は次のとおり。((注)筆者が主な項目を抜粋した。)

1.背景・問題意識、ガイドラインの位置づけ、目的と主な対象
(1)本ガイドラインでは、主として、単体としての企業経営を念頭に作成されたコーポレートガバナンス・コード(以下:CGC)の趣旨を敷衍し、子会社を保有し、グループ経営を行う企業(以下:グループ企業)においてグループ全体の企業価値向上を図るためのガバナンス(以下:グループガバナンス)の在り方をCGCと整合性を保ちつつ示すことで、CGCの補完をするものである。
(2)本ガイドラインの主たる対象は、基本的にグループ経営を行う上場企業、その中でも特に、多様な事業分野を抱え、グローバル展開を進めた大規模なグループ企業(多数の子会社を保有)を想定している。

2.グループ設計の在り方
(1)企業グループの企業理念や経営戦略を踏まえ、それを実現するために合理的なグループ設計の在り方を検討すべきである。
(2)グループ本社の役割は、子会社を含む企業グループ全体としての中長期的な企業価値の向上に向け、グループ全体の司令塔および共通インフラの提供者として適切な機能を果たすことにある。
(3)グループ本社の取締役会は、グループ全体の内部統制システムの基本方針を決定することに加え、子会社の内部統制システムの構築・運用状況の監督、重大な法令違反等が発生した場合の是正・監督やグループとしての再発防止などを行うことが求められる。
(4)グループ全体としての中長期的な企業価値向上および持続的成長を図る観点から、グループ本社は、グループ全体での適切な経営資源配分の在り方に関して、定期的に見直しを行い、最適化を図るべきである。

3.グループ内部統制システムの在り方
(1)グループ経営においては、適切な経営資源配分を通じた事業ポートフォリオマネジメントに加え、グループとしてのリスク管理を適切に行うべく、内部統制システムの構築・運用が重要課題となる。
(2)親会社は、会社法上、グループ全体の内部統制システムの構築・運用の義務を負っており、グループとしての企業価値の維持・向上の観点からも、いわゆる「守りのガバナンス」(コンプライアンス、社会的責任など)に関して、グループ内で一元的な体制を整備・運用することが求められる。
(3)親会社の取締役会は、会社法上、子会社を含むグループとしての内部統制システムに関する基本方針の決定を行うことが義務付けられており、業務執行の中でその構築・運用が適切に行われているかを監視・監督する責務を負っている。
(4)業務執行を担当する事業部門(第1線)、法務・財務等の専門性を備えつつ、事業部門の支援と監視を担当する管理部門(第2線)、内部監査を担当する内部監査部門(第3線)から構成される「3つのディフェンスライン」の考え方は、グローバルスタンダードとしても確立された、内部統制システムの構築・運用のための実効的な手段と考えられるため、その導入・整備について検討を行うべきである。
(5)有事対応は、中長期の企業価値を支えるレピュテーションへのダメージを最小化し、一般消費者を含む多様なステークホルダーの信頼の早期回復を図るためにも適切に行うべきである。
(6)親会社の子会社管理責任は、通常期待される合理的努力を尽くしていたかという観点から評価されるべきものであり、結果責任を問うものではない。

4.子会社経営陣の指名・報酬の在り方
(1)親会社は支配株主として子会社経営陣の選任・報酬に関する決定権限を有しており、グループとしての一体的な運営や企業価値を最大化させる観点から、こうした権限を適切に行使するとともに、普段から適切な監督を及ぼすことが期待される。
(2)親会社の取締役会および指名委員会・報酬委員会は、少なくとも主要子会社の経営トップの指名・報酬については、実質的に審議・判断することを検討するべきである。
(3)グループ全体として経営陣の後継者計画について実効的に取り組むための環境整備として、グループ企業が有する人的資源を最大限に活用するべく、親会社から子会社への一方的な人材供給だけではなく、子会社も含めたグループ全体での優秀な経営人材の発掘・育成が必要となる。
(4)グループ全体の一体的な組織運営に向け、国内外の優秀な人材を確保し、グループ内で最適な人材配置およびインセンティブ設計を実現するためには、グループとしての企業理念や経営戦略を頂点とした統一的な報酬政策を構築することが重要である。

5.上場子会社の在り方
(1)日本の上場子会社数は、近年、減少傾向にあるものの、2016年時点において東証上場企業のうち324社(2016年時点)の親会社が上場企業であることが確認されており、上場企業全体の約1割に相当する水準となっている。
(2)親会社は、当該子会社を上場子会社として維持することの合理的理由とその実効的なガバナンス体制の整備状況について、取締役会で審議し、投資家などに対して情報開示することが求められる。
(3)上場子会社においては、支配株主である親会社と少数株主との間に利益相反リスクがあることも踏まえ、上場子会社としての中長期的な企業価値向上に向けて独立した意思決定を担保するべく、実効的なガバナンス体制を構築することを検討すべきである。
(4)独立社外取締役には、一般に、執行陣による業務執行を監督する役割を果たすべく、執行陣からの独立が求められるが、上場子会社の独立社外取締役には、上場子会社としての中長期的な企業価値向上を図るべく、このような役割に加え、支配株主である親会社との利益相反を監督し、少数株主の利益を確保する役割が期待されるため、支配株主である親会社からの独立も求められる。
(5)上場子会社における実効的なガバナンスのための方策については、投資家への説明責任や資本市場からの信頼確保の観点から積極的に情報開示を行うことを検討すべきである。

他方、日本証券取引所グループでは、市場構造に関する新たな検討が行われている。
同グループは、2018年10月29日「市場構造の在り方等に関する懇談会」を設置した。現在、同グループは、一般投資家向けの株式市場として、市場第一部、市場第二部、マザーズおよびJASDAQの4つの市場を運営しているが、昨今、市場構造や関連する上場制度を巡り、改善すべき点が顕現化してきた。そこで、市場構造を巡る諸問題やそれを踏まえた今後の在り方等を検討するために懇談会を設置したものである。
2018年11月28日および12月19日に懇談会を開催し、12月21日「市場構造の在り方等の検討に係る意見募集(論点ペーパー)」を公表し、2019年1月31日を期限とする意見募集を行った。清田CEOによると2019年3月末までに懇談会から答申を受ける予定である。

市場第一部上場の企業に求めているコーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制の水準は、現状ではほかの市場と比較して大きな差がない状況である。しかし、市場第一部に関しては、他市場と比較して、上場企業が目指すべき水準、市場第一部企業が維持すべき水準として基準や義務はより高くあるべきとの指摘もある。
答申では、現在の市場区分の見直しの可能性も高く、この30年間で約2倍の2112社に増加した市場第一部の上場基準を見直し、絞り込むなど基準の厳格化が予想される。

上場企業、特に大企業において、連結子会社を有していない企業は少ないであろう。その意味では、すでにあるCGSガイドラインだけでなく、現在検討している本ガイドラインに則ったガバナンス体制を構築・運営する必要がある。
特に支配株主が上場企業(いわゆる親子上場)の上場子会社は、逓減傾向にあるとはいえ2016年時点で324社(東証1部上場企業では約130社)と上場企業全体の約1割を占めている。NTTドコモ、ソフトバンク、ゆうちょ銀行、NTTデータ、ユニー・ファミリーマートHD、ヤフー、かんぽ生命、協和発酵キリンおよび大日本住友製薬など株式時価総額1兆円以上の親子上場子会社が9社、時価総額で約30兆円の規模を有しており、東証1部時価総額約600兆円の5%を占めている。
そのため、本ガイドラインの骨子案では、特に上場子会社に関する記述が多くを割いている。
CGCおよびCGSガイドラインは、上場企業すべてを対象としているが、規模、組織形態など大小さまざまであり、一様に適用することは実情にそぐわない。目指すべきコーポレート・ガバナンスの実効性を高め、深化を求めるのであれば、東証上場基準の見直しと平仄を併せて、改めて検討すべきであろう。

<参考>

コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会報告書「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革」(経済産業省 2015年7月24日)
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150724004/20150724004-1.pdf

「CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-」(CGSレポート)
(経済産業省 2017年3月10日)
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20170310001_1.pdf

「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)(経済産業省 2017年3月31日)
http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170331012/20170331012-2.pdf

CGS研究会(第2期)の中間整理「実効的なコーポレートガバナンスの実現に向けた今後の検討課題」(CGS研究会 2018年5月18日)
http://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180518004/20180518004-1.pdf

「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(改訂CGSガイドライン)(経済産業省 2018年9月28日改訂)
http://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/20180928_01.pdf

「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)」の骨子案について(CGS研究会第2期 2019年2月13日)
http://www.meti.go.jp/shingikai/economy/cgs_kenkyukai/pdf/2_014_05_02.pdf

(参照:2019-3-8)