Monday, 01 April 2019 16:36

■日本の杉を使う〜(1)私たちのオフィスと持続可能な木材利用

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ブログ読者のみなさまはお気づきかもしれないが、ウェブ上に私たち執筆者のアバターができた。アバターは自分を示す「化身」であり本来は自分と等身大であるべきなのだが、今回は弊社が大切に思う事を表してみた。使わせていただいたのは栃木県鹿沼市にある木材加工企業と、イノベーティブなデザイナーとのコラボで生まれた、杉を使ったピンバッチ。その奥にある一つのストーリーをご紹介したい。


デザイナーの若杉浩一氏*1、下妻賢司氏には7年前の弊社設立時から、ロゴやWebページのデザインをお願いしている。曖昧なコンセプトの説明から、素晴らしいビジュアルを立ち上げてくれる天才たちだ。昨年新しいオフィスへの移転にあたって、狭いながらも気持ちよく働ける「カフェにいるような感じで」というリクエストと、最小限のコストというわがまま、そしてさらには、弊社の専門分野とするサステナビリティーに対する考え方をお伝えし、プラン作成と施工をお願いした。そうして、現在の快適で愛着を感じるオフィスが生まれた。単にLook & Feel がぴったりだ、というだけではなく、そこには、若杉氏率いるパワープレイス株式会社*2のチームが、長年育ててきた活動コンセプトが大きく関与している。

弊社オフィスの壁には、杉材を使った中空パネルが設置され見た目は木の壁のように見える。元々の白塗りの壁には釘一本も打っていない。同様のパネルで、フリーアドレス仕様のデスクと棚も作ってもらった。限りある床面積を快適に利用できるよう、ファイリングの高さや分量も見積もって、シンプルなスチールで組み立てていただいた。この中空パネルは、パワープレイスとMUJI 無印良品(株式会社良品計画 https://ryohin-keikaku.jp/csr/list/list_071.html)の共同企画製品で、杉の木の中央を構造材(柱)として加工した残りの余りの部分を組み合わせ、中空構造のパネルとして商品化されたものだ。軽くて強くて安価である、という利点を持ち合わせている。ただし常に湿度を保ち、定期的な手入れが必要だ。この壁にMUJIのハンギンググリーンを一列に並べたが、東向きの全面ガラスから入る朝陽と週2回の水やりの甲斐あって、上・下・前方の3D方向にすくすくと成長している。


IMG 9911 1ディスカッション・ミーティングに欠かせないホワイトボードは、この壁の杉パネルの一枚に、新木場にある「細田木材工業株式会社*3」の『きえすぎくん』という技術の加工を施してもらった。これは「WBSトレンドたまご」でも取り上げられた商品で、次回のブログで同社への訪問取材の様子を詳しく報告したい。

単純なことかもしれないが、この木目と緑が、私たちや来訪者の皆様を和ませ、癒し、心地よい空間を提供してくれている。快適さは仕事の生産性にも良い影響を及ぼしていると感じている。主役の木材は、日本一の杉産地である宮崎県産を中心とした国産。九州出身の若杉氏は、国産の杉の供給力が需要をはるかに上回り、さまざまな問題を生んでいることを「なんとかしたい!」という思いを原動力に、仲間たちと日本全国スギダラケ倶楽部通称「スギダラ (http://www.sugidara.jp/)」を結成し17年間、周りからは変わり者(失礼!)のように見られながらも少しずつ大きな活動にしてきた。

ご本人の執筆「杉材とDIY家具から考える、これからの暮らし」に、その問題意識が綴られている。(一部抜粋) 「戦後、日本は国土の復興のために建築材料として、全国で植林を行ってきた。そのおかげで、北は北海道から南や九州まで、スギ、ヒノキ、カラマツなどの針葉樹の人工林が増え、世界第7位の森林保有大国(人工林)である。それらの木々は、今や50年経ち、いま伐採の適齢期を迎えている。ところが、外材の輸入自由化政策、急速な工業化、建築基準法による木造建築の衰退などにより、国内の木材価格は一気に下落し、林業や製材業は産業として成立しなくなってきた。豊富な森林資源を保有していながら、木材自給率は30%にとどまり、価格の安い海外の輸入材に頼っているのが現状だ。〜(中略)〜 その結果、地域とともにあった林業、製材業、建材業はますます成立が難しくなってきた。地域産業の衰退は、そのまま地域の衰退につながり、地域の人とお金を、企業や都市に集中させてしまうことになった。安くて、簡単で、便利な暮らしの背後で、私たちは知らぬ間に地域の衰退を後押ししてしまった。地域の放置された人工林は山を荒らし、川を荒らし、海の恵みにさえ影響を及ぼすようになった。地域、里は、自然を数百年もの歳月で自然と人間が共存する、人間が作った自然だった。しかし私たちの欲望は、循環する地域の生活や風景そのものも奪っていった。高度な工業化、資本主義経済の行方は結局、富の集中と格差を生むことになったのである。われわれデザイナーや建築家たちも、そのことに拍車をかけてしまった。」

さて、話を最初に戻すと、ピンバッチを制作している鹿沼市の杉屋(https://sugi-ya.jp/main/about/)もスギダラのメンバー。杉屋さんと若杉チーム、有限会社栃木ダボ製作所*4とのコラボレーションによって、一つ一つ丁寧に作られている。弊社は、毎年その年の干支をデザインしたピンバッチを限定50個作っていただき、年末年始お世話になった方にお配りしてきた。今回は、人気商品の日本に伝わる伝承、神話の中の神々をデザインした『ENGIMONO』シリーズから、いくつかをアバターに使わせていただいた。天照大神・・とは畏れ多くて怯んだのだが、お気に入りのデザインを選んだ、と思ってお許し願いたい。このシリーズは純日本風でありながら、洗練されたデザインと職人技が活きている。そしてその奥にはスギダラ精神が宿っている。

日本の森林は、グローバルな観点とは異なる多くの課題を抱えている。スギダラケ倶楽部の活動には、大上段に構えるのではなく、身近な問題を解決しながら、楽しく素敵に活用しよう、というストーリーが脈打っている。その活動に参加する企業や人々は、それぞれの持てる力でこの信念を少しでも実現しようとしている。意志を持って働くとは、こういうことを指すのだろうと思う。与えられた環境に疑問を持つ知力を封じ込め、自分の意志なく働いていたのでは、彼らのような意味のある仕事はできない。私たちのアバターには、このような思いが込められている。
さて、この若杉氏は2019年4月より武蔵野美術大学の新設学科造形構想学部 クリエイティブイノベーション学科の教授に就任する。次回のブログでは、放置されていた杉に価値を与える時に欠かせなかった「イノベーション」の果たす力を、若杉先生と共に探っていきたい。

第2弾「日本の杉を使う〜(2) アイデアとイノベーションで生まれ変わる木材」は、以下のURLよりご覧になれます。
https://www.grid-f.com/blog/item/1771-2019-07-03-01-25-19.html


*1 若杉浩一(わかすぎ・こういち):プロダクトデザイナー、日本全国スギダラケ倶楽部副会長、コイヤ協議会発起人。パワープレイス株式会社シニアディレクター。1959年熊本県生まれ。九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科卒業。1984年株式会社内田洋行入社。2013年より内田洋行の子会社であるパワーワープレイス株式会社に勤務。2019年3月、同社を定年退職。同年4月、武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科教授就任。東京藝術大学非常勤講師、九州大学客員教授もつとめる。
*2 パワープレイス株式会社:http://www.powerplace.co.jp
*3 細田木材工業株式会社:https://www.woody-art-hosoda.co.jp
*4 有限会社栃木ダボ製作所:http://www.tochigidabo.com