Wednesday, 08 May 2019 10:13

■日産のガバナンス改善特別委員会 - 業務執行と監督の分離を提言、適切な内部通報制度のあり方にも言及-

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日産自動車が設置したガバナンス改善特別委員会*1は2019年3月27日、最善のガバナンス体制のあり方などについての提言をまとめた。

特別委は、前会長カルロス・ゴーン被告に対する取締役報酬及び退職後の金銭支払い、会社資金・経費の支払いなどについて、法令違反、社内規程違反、会社資金・経費の私的利用、経営者としての倫理観の欠如といった不正行為があると判断した。そして、そうした不正行為が「典型的な経営者不正」であり、またその根本原因を、ゴーン氏への人事・報酬を含む権限の集中にあるとし、2019年6月末までに、「指名委員会等設置会社」に移行するようもとめた。具体的には、取締役の過半数は独立社外取締役とすること、会長職を廃止し、取締役会議長(Board Chair)は、独立社外取締役が担うこと、指名委員会の委員の過半数は、独立社外取締役とし、その委員長も独立社外取締役とすること、報酬委員会の委員は全て、独立社外取締役とすること、監査委員会の委員の過半数は、独立社外取締役とし、その委員長も独立社外取締役とすることなどを提言した。業務執行と監督・監査の機能を明確に分離し、かつ、取締役の指名・報酬の決定権限の一人への集中を防ぐ体制づくりに主眼がある。

20e5a8f04c915400de5dd指名委員会等設置会社(当時は、委員会等設置会社)に移行しながら不正会計問題を見抜けなかった東芝を引き合いに、組織改革だけではコーポレート・ガバナンス強化につながらないとする意見もある*2。そのような反応を予期してか、報告書は、日産の企業風土改革にも切り込む。
トップダウンの指示に「できないと言えない」日産の企業風土を根本原因の一つに求め、「企業倫理の再構築と社内体制整備を行う必要がある」と指摘する。そのうえで、ものづくり企業としての企業倫理の再構築や秘書室、CEOオフィスの機能・権限の変更、事業戦略の立案部門である企画部門の復活などを提言している。一連の提言は「内部通報制度」にもおよぶ。

日産は内部通報制度を備える。もっとも、今般の不正行為防止には有効に機能したとは言えないという。通報内容をCEO傘下の組織が取り扱う体制になっており、最終的にCEOが通報内容を知りうるとすれば、CEO 自身の不正には効果がないと考えられているからである。特別委はこの体制を改めて、内部通報制度の最終的な通報先を監査委員会として、CEOほか執行役が通報者、通報内容を知り得ない体制の構築を提言している。

東京証券取引所と金融庁「コーポレートガバナンス・コード*3は、内部通報制度について、「適切な体制整備を行うべき」とし、例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とするなど「経営陣から独立した窓口の設置を行うべき」とする。また、消費者庁の「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン(以下、民間事業者向けガイドライン)」には、「経営幹部からも独立性を有する通報受付・調査是正の仕組みを整備することが適当」とあり、そのような仕組みとして、社外取締役や監査役等への通報ルートを例示する。「適切な内部通報制度」に関するこうした指針を念頭に置けば、特別委の内部通報制度への提言に格別の目新しさはないのだが、必ずしもそうとも言えない。

内部通報制度を備える企業は多い。日本経済団体連合会(経団連)のアンケート調査 *4によれば、回答した会員企業の9割超で内部通報窓口が整備されている。しかし、コーポレートガバナンス・コードや民間事業者向けガイドラインが指し示す「適切な内部通報制度」を実際に備えた企業となると、それほど多くはないのではないか。
GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れたコーポレート・ガバナンス報告書』*5で4機関以上の運用機関から高い評価を得た6社は、内部通報制度も当然に備える。しかし、各社の内部通報制度のうち、CEOに連なる通常の執行ラインと切り離されていると明確に確認できる企業は3社にとどまる。
経営幹部から独立した内部通報制度が、適切な内部通報制度を意味しないと判断するにしても、コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)でもって、そのように判断した理由を、事業内容、規模、特性、カルチャーの観点から説明すべきとは言えそうだ。しかし、各社のコーポレート・ガバナンス報告書には、そのようなエクスプレインはない。
優れたコーポレート・ガバナンスの仕組みを整備し、実践していると考えられる企業の現状からすれば、その途上にある企業は、推して測るべしといったところだろう。
それもそのはず、経団連は2018年5月、「公益通報者保護法の改正議論に関する意見*6を通じて、最適な内部通報体制のあり方への立場を表明している。事業者の事業内容、規模、特性、カルチャーなどによって異なり、「実効的な内部通報制度の具体的な内容・運用は事業者に委ねるのが合理的であり、画一的な基準は不要である」とする。
このようにしてみると、特別委の内部通報制度への提言は大胆かつ思い切った提言にみえてくる。

特別委の提言は、現経営陣の責任に言及しなかった。日産、仏ルノー、三菱自動車のアライアンスの見直しにも触れていない。現経営陣の責任を不問にしたままでは、組織を変えても経営の刷新は無理だという厳しい声もある*7
まずは日産の取締役会の判断となるが、株主による現経営陣への責任追及もある。株主総会の議決権行使の場面で、引き続き取締役候補となる現取締役に、どれだけの反対票が集まるのかが焦点になる。特に、機関投資家の判断に注目したい。

日産の取締役会は3月29日、特別委の提言に沿って、指名委員会等設置会社への移行に準備を進める方向性を確認*8した。最善なガバナンス体制の構築を喫緊の課題として受け止め、6月末までの移行を目指して社内体制を構築し、準備を進める。あわせて、「暫定指名・報酬諮問委員会」を設置することを決議した。6月の定時株主総会に向けて取締役候補者の選定、報酬案を検討するという。

参考資料

*1 日産自動車2019年3月27日付ニュースリリース「ガバナンス改善特別委員会から報告書を受領」(https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-fc1499a2382c4bfa3a359291600cacd0-190327-01-j?lang=ja-JP
*2 2019年3月27日付産経新聞「日産、問われる改革の実効性 社外取締役の人選が鍵」(https://www.sankei.com/economy/news/190327/ecn1903270043-n1.html)
2019年3月29日付読売新聞(社説)「日産の企業統治 組織改革だけでは不十分だ」(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190328-OYT1T50349/)など
*3 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/index.html
*4 経団連「企業行動憲章に関するアンケート調査結果」(2018年7月17日)(http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/059.html
*5 GPIF「GPIF の国内株式運用機関が選ぶ『優れたコーポレート・ガバナンス報告書』」(2019年2月27日)(https://www.gpif.go.jp/investment/310227_corporate_governance_report.pdf)
*6 経団連「公益通報者保護法の改正議論に関する意見」(2018年9月5日)(http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/069.html
*7 朝日新聞2019年3月29日付(社説)「日産企業統治 組織を整えるだけでは」(https://www.asahi.com/articles/DA3S13954918.html)
*8 日産自動車2019年3月29日付ニュースリリース「ガバナンス改善に向けた実行計画策定について」(https://newsroom.nissan-global.com/releases/release-fc1499a2382c4bfa3a359291600f5419-190329-02-j?lang=ja-JP)