Tuesday, 14 May 2019 23:00

■韓国のモバイル専業銀行の存在

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韓国にデジタル金融サービスが根付いてから久しい。特に銀行サービスでは、モバイルアプリが多くの主要機能を提供しているため、店舗に行くこともほとんどない。カード社会であるため、ATMにさえ行く機会はほとんどない。

韓国にモバイル専業銀行が誕生したのは比較的最近のことだ。2017年に韓国初のモバイル専業銀行が2行(Kakao Bank, K-Bank)誕生した。韓国で一般的にインターネット専業銀行という呼称が使われているが、実際はスマートフォンアプリのみで銀行業務全般を取り扱うため、このブログでは「モバイル専業銀行」と表現する。

モバイル専業銀行が開業した時すでに、従来の銀行によるモバイルバンキングサービスは定着しつつある時期で、モバイル専業銀行がフィンテックを活用し、何ができるのか注目が集まった。2年が経過した今、モバイル専業銀行はどのような評価を受けているのか。

2019年3月に韓国銀行が発表した「2018年決済報告書」によると、全国の成人男女2,597人を対象に調査した結果、過去3ヶ月の間、一般銀行のモバイルアプリを利用したことがあると回答した者は56.6%、モバイル専業銀行のアプリを利用したことがあると回答した者は13.5%と集計された。また、どちらも利用したことがあると回答した者は全体の12.2%で、そのうちの56%は、モバイル専業銀行のアプリを選好すると回答した。若年層を中心にモバイル専業銀行の選好度が高まってきてはいるが、一般的にモバイル専業銀行に対する信頼度や知名度が未だ低いのが現状である。

モバイル専業銀行2行にも大きな差がある。Kakao Bankの利用者数が約900万人であるのに対して、K-Bankのそれは約100 万人にとどまる。利用者数だけ見ても、大きな差があるのは一目瞭然ではあるが、収益面でも差が生まれている。Kakao Bankが2019年第一四半期に当期純利益で約60億ウォン(日本円:6億円)を達成し、黒字転換したのに対し、K-Bankは黒字には程遠い状態が続いている。

モバイル専業銀行2行の明暗がはっきりしてきた中、2行に続き、新たに3行目のモバイル専業銀行が設立されるというニュースが舞い込んだ。韓国は金産分離の原則にしたがい、企業が一定以上の銀行株式を所有することを規制したり、またその反対に、銀行が企業の株式を一定以上所有できないように規制している。ところが、この原則に対し、昨年、ICT企業に限定してこの規制を緩和し、産業資本でもモバイル専業銀行の株を34%まで保有できるようにする「インターネット専業銀行特別法」が国会で可決された。このことを受けて、モバイルバンキングコンソーシアムが次々と参入に名乗りを上げた。しかし、一度名乗りを上げたICT企業の辞退表明が、今年に入り相次いでいる。大きな理由は冒頭にも挙げた通り、一般銀行のモバイルバンキングサービスがすでに定着しており、差別化したサービスの提供が難しいと判断したからだ。また、Kakaoというブランディング力に勝る競争力を見つけるのが難しいからという面もある。特別法制定により、モバイル専業銀行が活気付くかと思ったのも束の間、ICT企業が慎重な姿勢に転じた。
もっとも、第3のモバイル専業銀行の候補が消えたわけではない。ネット証券会社のKiwoom証券が率いるKiwoom Bankコンソーシアムと、フィンテック企業のViva Republica率いるToss Bankコンソーシアムは第3のモバイル専業銀行設立に未だ意欲を見せている。

韓国では、モバイル専業銀行の特色を出しにくいのが現状だ。一般銀行でもすでにモバイルアプリからの口座開設が可能な銀行がほとんどであり、融資もモバイルアプリで対応している。モバイル専業銀行はどこで特色を出すのか。Kakao Bankの利用者数が1000万人近くまで伸びているが、その背景には「Kakao Talk」(コミュニケーションアプリ)の存在が大きい。「Kakao Talk」が生活の一部となっている韓国人にとって、Kakaoの銀行サービスは興味深いものがあった。発行カードデザインが可愛いこともあって、サービス開始直後は、カードが家に届くまでに1ヶ月以上かかるという人気ぶりだった。

現在も、グループ内の全員が見られる通帳サービスを展開しており、注目を集めている。サークルなどの会費を集める口座として、透明性が確保でき、会費を払った全員が残高照会を見られるようになっている。筆者も夫と旅行資金積立口座として1口座、趣味サークルの仲間と会費口座として1口座を開設し、計2口座を利用している。これも「Kakao Talk」を通じて、仲間を招待する形式になっているため、やはりKakaoあっての銀行なんだという意識になっていく。結局は、どれだけ密接に生活パターンに入り込めるかが勝負となっている。既存の銀行と差別化できる部分がほとんどない中、Kakao Bankは生活の一部になっている「Kakao Talk」を活用し、銀行サービスをうまく巻き込んだ形になった。

ローン審査の簡易性などもモバイル専業銀行を利用する理由として挙げられるが、それ以前に口座開設するトリガーとしては、生活の一部としてうまく巻き込むという事が大事なように思う。Kakao BankもK-Bankもローン審査は既存の銀行に比べてはるかに楽であり、金利も低い。しかし、利用者数には大きな開きが出てしまった。何が大きな違いだったのかと考えた場合、銀行サービスを銀行単体として捉えるのではなく、Kakaoが提供しているサービスの一つと捉えた事が勝因なのではないだろうか。

中国や日本のネット専業銀行とは全く異なる土壌でスタートした韓国のモバイル専業銀行であるが、中国や日本から学ぶことは多く、また他国に教訓となる部分も大きい。消費者の立場から考えれば至極当たり前のことなのかも知れないが、銀行が銀行単体として存在する意味はどんどん薄れていく。銀行は生活の一部として存在するだけで、生活の流れの中で利用しやすいサービスを消費者は取捨選択していく。

金融機関が主導するのではなく、消費者が金融サービスをカスタマイズする時代になってきた。時代の移り変わりに金融業界も積極的に対応していくことが求められるであろう。

参考資料[韓国語 原文のまま]
https://cnbc.sbs.co.kr/article/10000940307?division=NAVER
http://www.srtimes.kr/news/articleView.html?idxno=36155
http://www.hani.co.kr/arti/economy/finance/879297.html
http://www.inews24.com/view/1169135
http://www.fnnews.com/news/201903261059221979
http://www.zdnet.co.kr/view/?no=20190503104657
https://www.bok.or.kr/portal/bbs/P0000559/view.do?nttId=10050756&menuNo=200690