中村 友亮(プリンシパルコンサルタント)

中村 友亮(プリンシパルコンサルタント)

「持続可能な開発目標(SDGs)」を中核とする「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が、「国連持続可能な開発サミット」で採択されて3年余りがたつ。目標達成に向けて、企業も積極的に参加している。目標2「飢餓をゼロ」に着目してみよう。「経団連SDGs特設サイト」によれば、キリンホールディングス、アサヒグループホールディングスといった飲料メーカーをはじめ様々な業種で日本を代表する企業が名乗りをあげている。
産業革命期の工場法は労働者保護普及の「触媒」となった
産業革命期に革新者オーウェンの実験に始まった労働者保護の実践は、一部の先進的な工場に波及するにとどまった。次々とフォロワー工場を巻き込み、その実験自体が「当たり前」の企業プラクティスとして社会に受け入れられることはなかった。
現代の労働問題への対応は企業に利益をもたらすのか?

長時間労働の是正は企業に利益をもたらす。それが産業革命期の工場法の経験であった。

しかし、その利益は長期的に実現される。より良い労働環境と労働条件、十分な報酬でもって労働者に報いたとしても、生産性の向上につながる作業能力の向上をもたらすまでには、一定の時間がかかる。また、生産技術革新のための研究開発投資や設備投資が利益をもたらすのにも一定の時間がかかる。そのため、経営者には、「長期的な視野をもって」経営に当たることが求められる。長時間労働の是正に伴う研究開発投資や設備投資や人材投資が、企業に長期的な利益をもたらすという先見性とそれを実現するための戦略立案能力、実行力等の経営能力が必要になる。さらに、そうした投資支出に耐えうるだけの資本力をもった安定した企業であることが要求されるであろう。
産業発展の一翼を担った産業革命期の工場法

産業革命期の工場法は、直接には繊維工場における幼年児童の労働を禁止し、その他の児童、女性の労働時間を制限するにとどまる。しかし、「たいていの生産過程では児童や年少者、女性の協力が不可欠だったことから、実践の中で、全ての労働者の労働日も同じ制限に従わせられた」(マルクス『資本論』299)からであり、事実上多くの工場が操業時間を短縮した。このことが「資本(経営)」に一定の影響を及ぼしたことは否定できない。
現代の労働問題への対応は企業に利益をもたらすのか?

残業規制などを盛り込んだ働き方改革関連法が2018年の通常国会で成立した。2019年4月に施行される。残業時間を月45時間、年360時間を原則とし、最大でも単月100時間未満、年720時間以内などの上限を罰則付きで導入する。
これまでの日本の労働時間規制では、時間外労働には上限が存在せず、事実上青天井で残業を強いられる環境にあった。労動基準法(1947年)から約70年、日本の労働慣行は新たな局面を迎える。
立法の背景には、長時間労働の問題があり、その是正が喫緊の課題となっていることは言うまでもないが、長時間労働の問題は今に始まった問題ではない。世界的に見ればその歴史は、近代工場が勃興した産業革命期にまでさかのぼる。
労働問題は、今も昔も重要な問題であり続けている。現代においては重要なESGテーマの一つにもなっている。
産業革命期に企業で積み重ねられたプラクティスの現代企業への教えは古びていない。
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